NASAの太陽系外惑星探査衛星TESSが、設計上の主力手法であるトランジット法ではなく、重力マイクロレンズ法によって初めて惑星を検出した。対象は約4万光年彼方を周るスーパージュピター「Gaia23bra b」。ESAの退役したGaia宇宙望遠鏡のアラートとTESSのアーカイブデータを掛け合わせたことで、トランジット法では到達できない遠方の惑星系が見えてきた。2026年8月に打ち上げられたローマン宇宙望遠鏡が本格的に展開するマイクロレンズ探査の前哨戦としても意味を持つ。
NASAは9月、TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)が重力マイクロレンズ法によって惑星を発見したのはこれが初めてだと発表した。検出されたのは橙色矮星(質量が太陽の約80パーセント)を周るスーパージュピター「Gaia23bra b」で、質量は木星の1.6倍、軌道距離も木星に近い。地球からの距離は約4万光年におよび、TESSの通常の探索半径(約150光年)を大きく超える (NASA)。
なぜ「トランジット専用機」で遠方の惑星が見えたのか
TESSが本来担うのはトランジット法、つまり惑星が恒星の手前を横切る際のわずかな減光を捉える手法だ。既知の6,000個を超える太陽系外惑星の約4分の3はこの方法で見つかっている。ただしトランジット法は「大きな惑星が恒星に近い軌道を回る」場合に最も効く。木星のような遠い軌道の惑星が恒星面を横切る確率は低く、TESSの通常の探索距離も比較的近距離に限られていた。
今回の鍵になったのはマイクロレンズ現象そのものだった。手前の恒星が背後の恒星とほぼ一直線に並ぶとき、手前の恒星の質量が歪ませた時空が「宇宙のレンズ」として働き、背後の恒星の光を増幅する。手前の恒星に惑星があれば、その惑星も小さなレンズとして振る舞い、光度曲線に短いスパイクが現れる。既知惑星のうちマイクロレンズで見つかったのは5パーセント未満だが、この手法はトランジット法と逆に、木星型のような「大きく遠い」惑星の検出を得意とする (NASA)。
GaiaのアラートとTESSのアーカイブが掛け合わされた経緯
発見の起点は2023年まで遡る。ESAのGaia宇宙望遠鏡(運用終了)のアラートシステムが、ある恒星が増光したことを捕捉した。これはマイクロレンズイベントの兆候だった。研究チームはその後、TESSのアーカイブデータを遡って調べ、TESSが同じ天域を偶然監視していたことを突き止めた。
「Gaiaの観測は間隔が粗く、惑星を拾うには不十分でした。一方でTESSはイベント発生時に同じ空域を監視しており、より密な時間カバーが光度曲線の惑星由来の追加構造を示しました」と、研究を主導したニューメキシコ大学の博士課程学生Mallory Harrisは述べている。解析結果は2026年7月1日にThe Astrophysical Journal Lettersに掲載された (論文)。
TESSの打ち上げ時点で、この種の惑星を発見できるとは誰も想定していなかったと共同著者のDiana Dragomir(ニューメキシコ大学)は振り返る。「この発見は、これまで探そうと考えていなかったマイクロレンズ惑星がTESSのデータの中に他にも潜んでいる可能性を示唆しています」。
2つの手法の「補完性」が惑星人口統計を変える
今回の成果は単発の幸運ではない可能性がある。トランジット法は惑星の「大きさ」を、マイクロレンズ法は「質量と軌道距離」を与えるという具合に、両者は異なる情報を提供する。しかもTESSは銀河面の中でも恒星密度が比較的低い領域をほぼ全天にわたって観測しており、銀河中心部とは異なる環境にある惑星系を調べられる。銀河中心部は超新星に由来する放射が強く、恒星同士の重力遭遇で惑星系が乱されやすい一方、TESSが見る領域はそうした撹乱が少ない。太陽系のような惑星系が銀河のどの環境で形成されやすいかを比べる手段になる、とチームは指摘する (NASA)。
ローマン望遠鏡へ引き継がれる「前触れ」
この発見は、2026年8月30日に打ち上げられたNASAのナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡への布石という側面も持つ。ローマンは銀河中心部を密な時間分解能で観測するコアサーベイにより、マイクロレンズ惑星約1,000個とトランジット惑星約10万個の発見をNASAは見込んでいる。共同著者のMichael Fausnaugh(テキサス工科大学)は、TESSの初検出を「ローマンが行うマイクロレンズ観測の予行演習」と表現した。ローマンが銀河バルジ、TESSが銀河面の他の領域という分担で観測が進めば、異なる恒星環境下での惑星形成の比較が本格化する。
ただしマイクロレンズ観測はイベントの発生が一過きりで、追跡観測の機会が限られるという弱点もある。個々の惑星の詳細な性格付けより、惑星全体の人口統計に強い手法だという点は留意が必要だろう。それでも、6,000個超の既知惑星の大半が近傍のトランジット惑星である現状において、銀河の反対側に近い領域まで惑星探査の射程が伸びたことの意味は小さくない。TESSのような既存ミッションのアーカイブに、設計意図を超えた発見が眠っている──そんな視点で過去データを見直す価値を、今回の発見は示している。
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