NASA/ESAのハッブル宇宙望遠鏡とESAのガイアの観測データを組み合わせた国際研究チームは、銀河系が約118億年前──ビッグバン後わずか約20億年──に「LKH」と名付けた矮小銀河を呑み込んだ確たる証拠を発表した。銀河系中心部の球状星団39個の年齢と金属量を精密測定することで、従来より18億年さかのぼる合体史が復元された。査読付き論文としてNature Astronomyに掲載されている。
天の川銀河は現在、数千億個の恒星を持つ巨大な渦巻銀河だ。しかし最初からこの大きさだったわけではない。自らのガスから恒星を生み続けると同時に、より小さな銀河を繰り返し呑み込みながら成長してきた。ESAの公式リリースによれば、今回の発見はこの「銀河考古学」の記録を大きく書き換えるものだ。
銀河系の合体史に「3番目の事件」が加わった
これまで銀河系の大規模な合体としては2つが知られていた。1つは60億年以上前から現在も進行中のいて座矮小銀河との合体。もう1つは約100億年前に起きた「Gaia-Sausage-Enceladus(ガイア・ソーセージ・エンセラダス)」との合体で、これは銀河系の恒星円盤の構造に大きな影響を与えた。
一方、観測とシミュレーションは、これらよりさらに以前にも大規模な合体があった可能性を示唆してきた。ただし具体的な時期や規模については激しい議論の対象だった。研究チームを率いるイタリア・ボローニャ天体物理学・宇宙科学研究所のDavide Massari氏は「私たちの家が天の川銀河だが、この家がどう建てられたかは分かっていなかった。今回の論文で、最初の主要なレンガがどこから来たかを発見した」と述べている。それが矮小銀河「LKH」だ。
球状星団39個の年齢と金属量が示した「第三の集団」
研究の鍵になったのは球状星団だ。球状星団は数万から数百万個の恒星が球状にまとまった集団で、銀河系で最も古い恒星を含む。外部から呑み込まれた恒星も保存する「宇宙の考古遺跡」として機能する。
チームはハッブルで、銀河系内側の2万光年の範囲にある球状星団39個を観測した。この領域には最も古い時代の合体の証拠が残っていると期待される。ハッブルの高解像度画像から各星団の年齢と、ヘリウムより重い元素の豊度(金属量)を精密に決定した結果、予想していた2集団──若い銀河系内部で生まれた星団と、Gaia-Sausage-Enceladus合体で取り込まれた星団──とは異なる「第三の集団」が存在することが分かった。
この第三の集団は、Gaia-Sausage-Enceladus由来の星団より古く、銀河系内生まれの星団より若い。金属量に関係なくこの順序が保たれることから、別個の、より早期の合体由来であると結論された。共同著者のボローニャ大学Chiara Zerbinati氏は「ハッブル画像の高解像度と深度により、これらの星団の年齢と金属量を前例のない精度で測定できた。ガイアの測定と組み合わせることで、他と性質の異なる球状星団集団を識別できた」と説明する。
118億年前、太陽質量の約5億倍を一気に呑み込む
解析の結果、LKHは恒星の質量だけで太陽の約5億倍という矮小銀河で、約118億年前──ビッグバン後約20億年──に銀河系に呑み込まれたと推定された。当時の銀河系の全質量の中では無視できない割合を占める規模だ。名前のLKHは、銀河系早期の大合体を提唱してきた過去の3本の研究論文(Low-energy、Kraken、Heracles)にちなんで付けられた。
この発見は、銀河系形成論の描像そのものにも影響する。「初期の銀河系進化は自銀河内で生まれた恒星だけで定義されていたという過去の研究もあった。しかし外部銀河で生まれた恒星も考慮する必要があることを示した」とMassari氏は述べている。
ガイア退役後も続く「銀河考古学」の最前線
こうした研究を支えてきたESAのガイアミッションは2025年に運用を終えたが、その膨大な測定データは今後も銀河系史の解明に使われ続ける。研究チームは球状星団の観測を続け、銀河系が宇宙史で経験したすべての大規模合体を特徴づけることを目指すという。共同著者のフェルナンド・アグアド=アヘレット氏(ビーゴ大学・ラ・ラグナ大学)は「ハッブルはこれまで研究されたことのない球状星団を観測しており、銀河系の遠い過去の合体イベント解明に役立つ」と話している。
36年間運用され続けるハッブルと、姿を消したガイアのデータ遺産。2つのミッションの組み合わせが、私たちの「家」が建てられた最初の段階を照らし出した。今回の成果は、宇宙望遠鏡が蓄積したデータが時間とともに新しい発見を生み続ける好例と言える。
(本記事の内容はNature Astronomy掲載の査読済み論文およびESA・NASAの公式リリースに基づく)
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